SKETCH BOOK



その言葉は、
どれほど橙輝を傷つけただろうか。


想像を絶する過去を聞かされ、
あたしは何も言えなくなった。


橙輝はあたしと同じ境遇なんかじゃない。


橙輝はこんな茨の道を歩んで来たんだ。


あたしの今まではどれほど幸せだっただろう。


「今通ってる高校は。麻美が
 合格を決めていた高校だった。


 だから俺はここにいる。


 麻美のために、麻美のやりたかったことを
 やるって決めたんだ」


「麻美さんの、ために……?」


「麻美も、絵を描くのが好きだった。
 俺は麻美の真似をして絵を描き始めたんだ」




ははっと笑いながら、橙輝はそう言った。


橙輝が絵を描き始めたきっかけは
麻美さんだったのか。


だから橙輝はいつも、
辛そうな顔で絵を描くんだ。


「俺は、麻美が好きだ。
 それは今も変わらない」


「……橙輝」


「俺が麻美の絵を描くのは、
 今は亡き麻美の未来を見たいからだ」


特別な想い。


覆ることの無い愛情に、心を打たれた。


そうして、麻美さんは今、
自分では絶対に敵わない存在となった。


橙輝の中での、一番の女性。


それが麻美さん。


そのことを痛感して、とても胸が痛んだ。


チクリと、いや、ズキリと痛んだ。



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