イジワルな彼は私を溺愛しています

お見合い

見合い当日。

今日は朝から家中が騒がしい。

この家は大きすぎて、私の感覚ではお城という方がふさわしいと思うが。

「お嬢様、背筋を伸ばして」

私は朝早くに起こされ、今はメイドに着物を着付けてもらっている。

言われたとおり背筋を伸ばすとギュウっと帯が締められる。

「ぐふっ」

「またはしたないお声を出されて。もっと稽古をした方がよかったですね」

いつのまにいたのか、私に礼儀作法を教えてくれた先生が言った。

「嫌です」

とにかく厳しくて何度泣きべそをかいたことか。もう二度と教わりたくない。

「そうですか。私はしたいですわよ」

先生はおほほと笑った。
この台詞で分かるとおり、先生はドSだ。

「お嬢様が決して泣かずまいと思いながら泣いているお顔は本当に素敵でした」

全く褒められている気がしない。

「またこちらに来てくださいね」

先生はにっこりと笑って部屋から出て行った。






お見合いは旅館の個室で行うらしい。

だが、それにしてもデカい。

記者会見ができそうな広さだ。

私は今、そこにある馬鹿みたいに大きい机の前で一人で正座している。

こんなに大きいのは両家の親戚が来るんだとか。

私が座るように言われた席は上座で、一番扉から遠い席。
今日の主役は私ということだろう。

ガチャリ

扉が開く音がした。

私はゆっくりと軽く会釈する。先生に教わったことだ。

顔を上げると袴姿の和海がいた。

いつもと違うセットしてある髪。

本当に綺麗だ。これが私と同じ人間なんだから、神様は不平等だ。

「そんなにジロジロ見て。惚れ直した?」

意地悪な笑みを見せながら私の正面に座った。

「そんなことない」

素直になれない自分が嫌になる。

「俺は惚れ直したけど」

和海は付き合ってからさらっとそんなことを言う。

いつまでも素直になれない私とは違う。

「わ、私も」

惚れ直した、と言おうとした瞬間に扉から沢山の人が入ってきた。

「他人の振りな」

和海は小声で言って、親戚に笑顔を振りまいた。
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