ツンデレ黒王子のわんこ姫
「それで」

畳に胡座をかいて座った健琉の横に正座した芽以が座っている。

まるで叱られた犬のようで、健琉はニヤリと笑った。

「どうして芽以はここにいるんだ?」

健琉の疑問はもっともだ。

芽以は俯いたまま溜め息をついて

「ごめんなさい」

と小さく呟きを繰り返していた。

「俺は謝って欲しい訳じゃない。理由を聞きたいと言ってるだろ」

冷たい言い方だが、現状、健琉は芽以の頭を抱き寄せて左手で撫でてしまっているため迫力はない。

「桃,,,」

「桃?」

突然、芽以の口から食べ物の名前が出てきて健琉は顔をしかめた。

芽以の桃好きは知っている。

飲み物も、デザートも桃一択と言っても過言ではない位愛していることも知っている。

だか、今回の失踪と、桃がなんの関係があるのか?

秋は桃のシーズンとはいえ、大分は桃の名産地ではないはずだ。

「桃なら岡山だろ」

健琉の呟きに、一瞬、芽以の表情が綻んだ。

その可愛さに健琉は怯みそうになったが、甘やかすわけにはいかない。

健琉が芽以に極上の微笑みを返すと、再び、芽以は叱られた犬のようにシュンと項垂れた。

"くそ、可愛すぎる"

抱き締めたくなる衝動に健琉はじっと耐える。

「桃山家との縁談が持ち上がりまして'''」

「誰に?」

「,,,」

「まさか,,,芽以、おまえにか?」

絶句する健琉に、芽以は顔を両手でふさいで頷いた。
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