希美ちゃんの初恋
一章 高校入学


――私にはずっと好きな人がいる。


幼稚園、小学校、中学校と一緒の校舎で過ごしてきた。


そして、今年の春から高山高校へ通う事になった理由も、幼馴染みの斎藤卓也(さいとう たくや)が希望していた高校だったから。


頑張って必死に勉強して、ギリギリで合格できた。


卓也は、
「また一緒だな! #希美(のぞみ)!」
と、真っ白な歯を見せながら笑いかけてくれた。


でも、その笑顔は私の心を傷つけるんだ。


卓也にとって希美という存在は『幼馴染み』以上でも、以下でも無い。


私がいくら卓也を好きで付き合いたくても、卓也の好きは私には向いてない。


そんな事はずっと昔から分かっていた――。



「しかし、入学式長かったな~」


卓也が頭を掻きながら、ぶつくさと文句を言っているのが目に入った。


今日は登校初日。


私たちは新しい制服に身を包み、入ったことの無い教室に向かっていた。


嬉しいことに、卓也と同じクラスになることができてしまった。


もうそれだけで、私は嬉しくてたまらなかった。


「どうしたの? ニヤニヤして?」


いきなり後ろから声をかけてきたのは、親友の篠原心咲(しのはら みさ)だ。


小学校からの親友で、よく一緒に遊んでいた。


もちろん今でも大の仲良しだ。


「えっ? そんな事無いよ?」


私は慌てて取り繕う。


でも、心咲には全てお見通しのようだ。


クスリと笑った後、声を潜めて話してくる。


「卓也くんが一緒のクラスで嬉しいんでしょ」


私は顔に火照りを感じながらも、必死に否定する。


「ち、違うよ!」


思ったより大きな声が出てしまったみたいで、近くにいた数人の生徒が不思議そうにこちらを見てきた。


「お? いきなりどうした?」


......どうやら卓也も聞こえてしまったらしい。


生徒たちの隙間を縫うようにこちらに歩いてきた。


「希美がね、卓也くんと一緒のクラスになれて嬉しいんだって」


いきなり、心咲がとんでもない発言をする。


慌てて振り向くと、心咲はくすくすと笑っていた。


「そうか? 俺も一緒のクラスで嬉しいぞ?」


卓也がニコッと笑いかけてきた。


「私は別に嬉しくないけどね」


私は軽い口調で嘘をつく。


うん。本当はすごい嬉しい。


多分、こういう素直じゃない所が駄目なんだろうな......。


「そんなツンツンしてるから、彼氏もできないんだぞー」


卓也は茶化すように指を差してきた。


イラッとした私は、負けじと言い返す。


「あんたも彼女の一つくらい作ったら?」


「じゃあ、どっちが先に恋人作れるか勝負だ!」


卓也はそう言うと、
「絶対勝つ!」
と捨て台詞を残し、去っていった。


「......あんなこと言って、卓也くんに彼女できたら絶対泣くでしょ?」


心咲は、呆れた表情で私を見てくる。心咲が卓也に話振ったくせに......。


「そんなことないもん......」


私は目を逸らしながら、強がる。


でも、もしそうなったら泣いちゃうと思うけど......


そう思いながら、教室に入っていった。



教室では、ほとんど初めて見る顔ばかりだ。


まだみんな慣れていないせいだろう。


どことなくそわそわした雰囲気が漂っている。


突然ドアがガラリと開いた。


おそらく担任の先生だろう。


ノートをかかえて教室に入ってきた。


「担任の桜木だ。一年間よろしく。じゃあ自己紹介して」


それだけ言うと、椅子に倒れ込むように座った。


よっぽど疲れているのかな。



自己紹介が終わり、先生が教室を出ると、ほとんどの男子たちは心咲の机の周りに集まっている。


いつものことだ。


心咲は女の私から見ても、凄い美人だ。


中学生時代はたくさん告白されたらしいけど、誰かと付き合ったとかは聴いた事がない。


私は机に肘をつきながら、チラチラと心咲を見ていた。


「やっぱり人気者だよな」


頭上から声が聞こえた。


見上げると、卓也が苦笑いしながら心咲を見ている。


「......そだね」


男子と一緒に話している心咲を見ながら考える。


私も、あのくらい美人だったら卓也も振り向いてくれるのかな......。


「まあ、お前も頑張れよ。厳しいかもだけどな!」


卓也はバンバンと私の肩を叩き始めた。


本当にデリカシーの欠片もない。


「うっさい!」


私が卓也の手を叩き落とすと、卓也はぶつくさ言いながら自分の席に戻っていった。



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