優しい音を奏でて…

ピンポーン ♪

─── ガチャ

ドアが開いて、ゆうくんが顔を覗かせた。

「いらっしゃい。上がって。」

「お邪魔…しまーす。」

靴を脱いで部屋に入ると、ゆうくんは、すでにキッチンに立っていた。

初めてのゆうくんち。

「ゆうくんち、広いね。」

「そう? まぁ、奏んちみたいに防音室入れて
ないから、余計にそう見えるのかもな。」

リビングの隅に置いてあるのは、電子ピアノとバイオリンと細長い黒いバッグ。

「ゆうくん、これ…?」

私は思わず立ち上がってそこに近寄った。

「あぁ。いいだろ?
p BONE って言うんだ。
出して吹いてみていいよ。」

そう言われて、バッグを開けると、中には真っ黒なプラスティック製のトロンボーン。

「こんなのあるんだ。音は? いいの?」

「んーー。
趣味でやる分には、これで十分かな?
ほら、ピアノだって、電子ピアノだし?」

と言って笑うゆうくんは、一緒に吹奏楽をやってたあの頃のままのような気がした。

「奏、もうすぐできるから、こっちのサラダ
運んでもらっていい?」

「分かった。」

ゆうくんが作ってくれたのは、パスタ。

私が1番好きなカルボナーラだった。

「どうぞ。」

私の前にお皿を置くと、ゆうくんはまたしても向かいではなく、隣に座った。

「私、ゆうくんにカルボナーラが好きって
言った事あった?」

「ないけど、みんなで出かけた時、いつも
食べてたじゃん。」

「よく覚えてたね。」

「ずっと見てたからな…… 」

うそ!?

ほんとに?


それから、何を言っていいのか分からず、私は俯いて無言でカルボナーラを口に運び続けた。



「………ごちそうさまでした。」

「お粗末様でした。」

ゆうくんは、やっぱりにっこりと微笑んでいた。

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