優しい音を奏でて…

「ごちそうさま。」

ピザを食べ終わると、ゆうくんが、おつまみにチーズや生ハムなどを冷蔵庫から出してくれた。

「奏、ビールのままでいい?
ワインとかチューハイとかもあるよ。」

「ゆうくん、どうするの?」

「んー、ワインの気分かな?」

「じゃ、私も。」

「おっけ。」

背の高いゆうくんが上の棚からワイングラスを出して準備してくれてるのを見ながら、

子供の頃から一緒だったから、普段はあんまり思わないけど、こうして見ると、ゆうくん、かっこいいなぁ。

私、やっぱりゆうくんが好きだなぁ。

と思った。


「こっちでまったり飲も。」

と言って、ゆうくんはソファの前のローテーブルにワインとつまみを運んだ。

ゆうくんはソファに座り、私はソファを背もたれにして、センターラグに直接座り込んだ。

「何で、そこ?」

ゆうくんが私を見て笑った。

「ん、なんかここが落ち着く感じ?」

ゆうくんの膝を肩に感じながら、下からゆうくんを見上げた。


ゆうくんはコルク栓を抜くと、ワインを注いでくれた。

「ありがと。」

ワインを一口含むと、私から切り出した。

「ゆうくん、ゆうくんはもしかしたらあんまり
聞きたくない事かもしれないけど、聞いて
欲しい事があるんだ。」

「ん、何?」

一瞬、ゆうくんの表情が強張った気がした。

「………あのね、私、1年前のお正月にね、
プロポーズされたの。」

ゆうくんは、目を見開いて私を見つめた。

「うん、それで?」

「3年位付き合ってた人でね、自分から好きに
なった人じゃないけど、私をとても大切にして
くれてね、真剣に愛してくれてる人だと
思ったから、この人と一生寄り添って穏やかに
生きて行こうって思ったの。」

「………うん。」

「だけど、ひと月後のバレンタインの日に、
『他に好きな人が出来たから別れよう』って
言われてね、もう誰も信じられなくなって、
東京から逃げ帰ってきたの。」

「………バレンタインって、奏の誕生日
じゃん。」

「うん。
だから、余計に堪えたっていうか、帰ってきて
しばらくは引きこもりみたいな生活をしてて、
最近、ようやく外に出られるようになった
ばかりで。

だから、ゆうくんに好きって言ってもらえて、
すっごく、すっごく嬉しかったんだけど、
すっごく嬉しい分、逆にすっごく怖くて、
また裏切られたらどうしようと思うと、踏み
出せなくて、だから………」


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