優しい音を奏でて…

18時30分。

ゆうくんが迎えに来た。

手を繋いで、駅の反対側にできたフレンチレストランに向かった。

大人気でなかなか予約が取れないらしいのだが、ゆうくんは随分前から予約してくれてたらしい。


19時。
シャンパンで乾杯。

「奏、誕生日おめでとう。」

ゆうくんが優しく微笑んだ。

「ありがとう。」

ゆうくんが頼んでおいてくれたコース料理を食べながら、幸せな時を過ごした。

最後のデザートを食べ終わり、私は、ガトーショコラの入った紙袋をテーブルに出した。

「ゆうくん、これ、もらって。
ゆうくんが大好き。
子供の頃から、ずっと義理チョコのふり
してたけど、ほんとはずっとあれも本命チョコ
だったよ。」

ゆうくんは、嬉しそうに笑った。

「中学生の頃の俺に聞かせてやりたいなぁ。
あの頃、奏は俺の事、友達としか思って
ないから、河合の応援してると思って落ち
込んでたんだからな。」

「ご、ごめんなさい。」

私がしゅんとして謝ると、

「いいよ。もう気にしてないし。」

と、ゆうくんは頭を撫でてくれた。

「開けていい?」

「いいよ。」

ゆうくんは、袋を開くと、目を細めて嬉しそうに笑った。

「ありがとう。
俺が毎年、楽しみにしてたやつだ。
帰って食べるのが楽しみ。」

と言って、袋を閉じた。

そして、

「じゃあ、今度は俺から。」

と小さな箱を取り出した。

「誕生日おめでとう。」

「ありがとう。」

私が受け取ると、

「開けてみて。」

と、ゆうくん。

「いいの?」

と聞くと、ゆうくんはにっこり頷いた。

ラッピングを解くと、中から黒いベルベットの小箱。

これは……。

微かな期待を胸に箱を開けると、中央の石が、店内の照明を受けて眩い光を放った。

「ゆうくん、これ……?」

「奏、結婚しよ。
ずっと奏を大切にする。
もう奏と離れたくないんだ。
一生、俺のそばにいて。」

ゆうくんの目が真剣な想いを物語っていた。

「はい……」

私は、胸がいっぱいで、喉の奥に何かがつかえたようで、それ以上、何も言えなかった。

ゆうくんは、私の手の中の小箱から指輪を取り出すと、私の左手を取って薬指にゆっくりとそれをはめた。

手を動かす度に、キラキラと光を放つそれは、私をとても幸せな気分にしてくれた。



誕生日って、幸せな日だったんだ……。




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