緋色の勇者、暁の聖女
 旅は順調だった。

 だけど、あのアエーシュマの一件でクランをガーディ本部に送るため、海岸の洞窟から随分遠回りをしてしまっていた。

 次の目的地は、一度あの海辺の洞窟に戻ってから、また別の道を進んだ先の山にある。遠回りをしてしまった事に後悔はしていないけど、やはり時間がかかり過ぎてしまったのは確かだ。

 僕たちが遅れれば遅れる程、アエーシュマの被害は進んでゆく。そして、悲しむ人も……

 なるべく急ごうと、僕は少し焦っていた。

 でも……不思議な事に、僕以外はそれ程あわててはいないみたいだ。遅くなる事はないけれど、早くもならない。みんな今までの移動速度を変えるつもりは無いようだった。

 あれほどアエーシュマを倒したがっている、カナリまで。

 レイにすら焦りは見えない。それどころか移動中、時折立ち止まっては周りの景色をぼんやり眺め、考え込んでいる事が多くなった。

 不思議に思って、何をしているのかと聞くが、ただ景色を眺めていると、それだけしか教えてはくれなかった。レイのそんな行動に、カナリもクレールも何も咎める様子はない。

 彼女が立ち止まると、追い付いて来るまで僕らも立ち止まる。そんな事の繰り返しだった。


「――――ねえ、もう少し、先を急いだ方がいいんじゃないかな。だいぶ遠回りもしてるし……」


 ある日、とうとう我慢が出来なくなって思いきってみんなに言ってみた。だけど、僕のその言葉にみんな顔を曇らせてしまった。返事を返してくれたのは、レイだけだった。


「……そうだね、ぐずぐずしてられないよね。うん、みんなもう少し急ごう!」


 カナリとクレールは顔を曇らせ、じっと黙って僕を見つめたままだった。

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