緋色の勇者、暁の聖女


 ――――琥珀色の石の欠片。


 それはミュールさんの石だった。


 やっぱり夢なんかじゃなかった!

 僕は行っていたんだ!

 あの、魔法の世界へ……!


「ねえ、神無月君、夏休みにキャンプがあるらしいよ?」


 前を歩いていた彼が、振り向いてそう言った。

 唐突にそんな事を言い出すなんて、僕の孤立をいつも心配していた担任の差し金だろうとすぐに分かった。今までの僕なら、嫌な顔をして返事もしなかっただろう。

 だけど……


「神無月君も一緒に、行かない?」


 手のひらにある、ミュールさんの石をキュッと握りしめる。石を握りしめると、そこに確かに存在する感触。

 レイたちが、僕の背中をそっと押してくれた気がした。




「――――うん、僕も行くよ!」




 クラスメイトが、ホッとしたような嬉しそうな、笑顔になった。それを見て、僕も笑った。




 ――――友達なんていらない。


 僕はずっとそう思っていた。

 だけどあの世界で、一人でいるよりも大切なものを知った。帰ってきた今も、レイたちが僕の側にいるのを感じる。


 友達、仲間、信じる事、あきらめない事。

 本当にたくさんの事を教えてもらった。


 校舎へ入るドアの前で、僕は青く晴れ渡った夏の空を見上げた。ふわりと、やわらかい風が髪を揺らす。

 夢のようだったけど、夢じゃなかった。

 レイたちのいる魔法の世界は、大変な事がたくさんあった。たくさん悩んで、泣いて苦しくてたまらない事もあったけど、今はそのどれもがとても懐かしい。
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