緋色の勇者、暁の聖女
 聖堂のある森から山を越えて、僕が倒れていた砂浜の方角とは大陸の逆側にある海岸へ向かう。

 移動はやはり徒歩だ。車も移動用の動物すらいないなんて、少しがっかりしてしまったけど。今は何処もそういう便利な物が不足しているそうだから、仕方ない。

 そして僕らは予定通り、街の人がみんな寝静まった時間に出発した。見送りに出てくれたのは、グラファイト一人だけ。星空の下、彼は僕らの旅の成功と安全を祈ってくれた。


 まさか、子供だけで旅に出るなんて無いだろうと思っていたけど。旅の仲間は僕とレイ、それにカナリとクレールの四人だけだった。

 大抵の勇者と聖女の旅はそういうものなのだそうだ。勇者と聖女、それに聖女のお付きの人と護衛で編成されるらしい。

 今回は、カナリがそのお手伝いで、護衛はガーディ教団では無くて治安隊からクレールが名乗り出てくれたんだって。


「――――大抵の勇者と聖女、って……他にも勇者と聖女がいるの?」


 歩きながら僕がそう聞くと、カナリが教えてくれた。


「……聖女も勇者も何人もいたんだけど、みんな旅には失敗しちゃったの」

「失敗……?」


 レイの他にも聖女はたくさんいたんだそうだ。何人もの聖女が、この世界を救う為に異世界から勇者を呼び寄せて、旅立った。

 だけど、絆を深めるはずの旅の途中で仲違いしてしまったり、アエーシュマに遭遇して命を落としたり……

「……今は聖女はレイ一人だけになっちゃったんだ」


 過酷で危険な旅だとは聞いていたけど、いまいち実感は無かった。でも、突き付けられた現実。

 僕は本当に、レイとこの世界を救えるんだろうか。

 不安が僕の胸に重く圧し掛かった。
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