Sweet break Ⅲ

『関君、どこか行きたいとこある?』

関君は、少し考えるようなそぶりをしてから『無くもないが…』と、言い淀む。

『どこ?』
『いや…やっぱり、いい』
『何よ、そこまで言って気になるし…言ってよ?』

少し強めに食い下がると、関君にしては珍しく、こちらの様子を伺いながら謙虚な物言いで聞いてくる。

『ちょっと、会社に寄ってもいいか?』
『えっ…今から?』
『仕事をするわけじゃない。明日の午前中に、営業と合同にやる会議資料を取りに行きたいだけだ…』

続けて、”事前にちょっと目を通しておきたいから…”と、関君。

休日だというのに、既に明日の仕事のことまで考えている関君に感心しつつも、休日くらい仕事のことは忘れてたって良いのに…と、心配になる。

『もちろん、倉沢が嫌なら…』
『良いよ』
『……良い…のか?』
『うん、別に良いよ、時間もあるし、それ、大事な資料なんでしょう?』
『ああ、そうだが…』

自分から言っておきながら、何故か躊躇っているような、関君の様子に、こちらの方が違和感を感じてしまう。

『何?』
『いや、お前、本当に良さそうだから…ちょっと驚いた』
『驚くって、何に?』
『普通、自分と一緒にいる時に、仕事とかって、女は嫌がるだろ』
『そう…なの?普通がよくわからないけど…』

それは、今までの”彼女さん”が…という意味だろうか?想像して若干ショックを受けつつも、自分はどうだろうか?と考えてみる。

『う~ん、やっぱり私も、休みの日くらいは仕事のこと忘れていた方が良いとは思うけど、…逆に考えれば、その資料があれば、明日の関君の仕事が少し楽になるんでしょう?』
『…まあな』
『だったら、その方が良いと思うし…あ、それにここから会社まで、またドライブデートもできるしね』

思えば、割と都会にある我が社に向かうということは、これから夕暮れ時の街中を、関君と一緒に、車から眺められるという”お楽しみ”もある。

そう考えれば、そんなに悪い話じゃない。

『お前…』

関君が、何かを言いかけてやめるのをみて、もしかして変なことを言ったのかな?と不安になった。

『あれ?これって、普通じゃないの?』
『いや、何でもない…ほら、乗れよ。できるだけ景色の良い道、通ってやる』
『うん!』

関君の言葉に、単純に舞い上がるのは、やっぱり恋愛初心者だから、なのだろうか?

ロックが外れた助手席のドアを開け、昼間乗った時よりも少し薄暗い車内に乗り込んだ。

ふと、会社に行くのは良いけれど、職場の誰かに見られたりしないだろうか?と気になったけれど、関君の言う通り、少しずつ暮れていく洗練された都会の街中を走るうちに、そんなことは、すっかり忘れてしまっていた。
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