Sweet break Ⅲ

時間にして、ものの10分くらいだろうか、社員用の通用口から、関君が一人で出てきた。

…良かった、誰にも気付かれなかったんだ…と、安心した瞬間、こちらに向かう関君が誰かに呼び止められ、振り向くと通用口のドアから、私服姿の女性が現れた。

『…愛美さん?』

咄嗟に身体を小さくして、シートの陰に隠れる。

エンジンも止まっているし、二人のいる場所からこの車までは、かなり距離があり、近くに街灯も無いこの薄闇の中、気付かれることはないとは思うけれど、愛美さんがこちらに向かって来ないとも限らない。

念のため、息を潜めて、動向を見守ることにした。

二人はその場で何か会話しているようだけど、当然会話の内容は全く聞こえず、その姿だけが無声映画のように、目に焼き付いてしまう。


”関君、入社当初から愛美さんに凄いアプローチ受けてたんだよ”


不意に紗季の話が脳裏をよぎる。

その情報を丸ごと信じれば、愛美さんは関君に振られたことになる。

それにしては、今見ている二人に、そんなそぶりは一切見受けられない。

最も、愛美さんくらい綺麗な大人の女性ならば、そういったことがあったことなど微塵も感じさせず、スマートに対応できる術を手に入れているのだろうか?

どちらにしても、こうして並んでいるところを見れば、やはりモデルのようにお似合いの二人。

愛美さんも、今日は平日に着ている受付用の制服と違って、白いカットソーにブルーのロングフレアスカートという、フランクな私服。

いつものきちりとした受付嬢の彼女と違って、尚のこと柔らかな女性らしさが際立ち、束ねていない緩くウエーブのかかった長い髪も、耳に揺れるピアスも、大人の魅力を存分に醸し出し、なんとも美しすぎる。
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