天罰
たまたま誰もいない日に桃さんが僕の家に来たことがあった。彼女は僕の部屋に入るなりすぐにハグして「会いたかったー」と言った。僕も会えて嬉しかったから「うん、僕も」と言って彼女の背中に腕を回した。ベッドの側面に凭れながら僕たちは隣同士に座った。彼女はそっと僕の手を握って来た。その時、初めて僕の心臓がふわっと跳ねた気がした。彼女は嬉しそうに握った手をリズミカルに動かし実に楽しそうだったが僕には理解が出来なかった。彼女は言った。「実はね、弟がいたらこうやって手を繋いで歩きたかったなぁと思って。もし外でこんなことしたら変に思われるでしょ?だから今だけ楽しんでるの」それを聞いて僕は合点がいった。そんなに弟が欲しいんだなと思った。きっと僕にもお姉ちゃんがいたらこんな感じなのかなとふと思った。けどこの時から段々お互いの歯車が狂い始めてきたように思えた。桃さんは僕を見下ろすと右手を僕の頬に添えて撫で始めた。僕が驚いて目を丸くしていると彼女は「肌がすべすべー」と言って可愛がるように僕の頬に触れた後、僕の唇もなぞるように触れ「可愛い唇」と優しい声で囁いた。僕はその時始めて彼女が全然知らない人に思えて恐怖を感じた。僕が目をそらすと桃さんは「ねぇ、目を閉じて?」と言ってきた。

「え!?」僕が彼女の方を見上げると桃さんは「ね?」といたずらっ子のような顔で言ってきた。僕は怖かったので思わず「嫌だよ」と答えた。「なんで?」彼女は笑みを絶やさなかったけど声のトーンが下がった気がした。「だって・・・。目を瞑ったら何するの?」そう聞くと桃さんは「楽しいこと」と微笑んで言った。僕が戸惑っていると「ね?大丈夫だから」と彼女は優しく言うので僕は恐る恐る目を閉じた。すると一瞬間があったけど数秒後に僕の唇に温かくて柔らかい感触を感じた。桃さんが僕に初めてキスをしたのだった。
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