ドクター時任は恋愛中毒
◇居眠りの理由


俺は、時任類。総合病院の脳神経外科に勤めている医者だ。


「時任先生聞いてください! 藍澤先生ってば、デートには応じてくれたのに、いざ告白したら、私のことなんとも思ってないって言うんです!」

「諦めろ。あいつはそういう男だ」

「ひどいです! 諦められないから相談してるのに……」

「諦めろ。俺はそういう男だ」


藍澤というのは同僚の心臓外科医で、腕はいいが少々女性関係に難のある奴である。

そんな藍澤を煙たがる医師たちは多く、まともに会話をする同僚は俺くらいしかいないため、奴に振られた女たちに相談されることは珍しくなかった。

そして、ヤツのせいでとばっちりをくらうことも珍しくなかった。


「時任先生には人の気持ちがわからないんですね……」

「人の気持ちなど他人に分かるはずないだろう。読心術などというものがもあるが、あれも決して科学的根拠に基づくものではないし――」

「そういう話じゃありません!」


勝手に相談してきたくせに、勝手に腹を立てて去っていく女たちが俺には理解不能である。

そもそも、恋愛なんていうものは脳内で分泌されるあらゆる化学物質が見せる幻覚のようなもので、それに一喜一憂するなんてばからしいとしか言えない。


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