ドクター時任は恋愛中毒


そう言いつつも、頭の中には、白衣姿で理性をなくした類さんに迫られるシーンが浮かんでドキドキしてしまう。

いや、ダメだってば。病院でそんなこと……!


「うむ……それが賢い選択だ」


ひとり納得したように頷く類さんに、嫌な予感がよぎる。それが的中したかのように再び覆いかぶさってくる彼を、なんとかなだめようと逞しい腕を掴んでみるけれど。


「だからって、今するなんて誰も――」

「……すまない。愛しているが故、だ」

「や、あの、類さ――」


あれこれ言おうとする口は彼のキスに塞がれ、二度目の甘い時間が訪れる。

もう、類さんってば……! と呆れる気持ちもあるけれど、好きな人にここまで愛されて、幸福じゃないわけがない。私も彼の首に腕を回し、体を熱くしてはあふれる愛情を伝えた。

その最中、ぼんやり思い出したのは、藍澤先生の“天国”のハナシ。

さっきの行為で一度たどり着いたその場所。そして今もその扉はすぐ近くにある。好きな人とする、って、こういうことなんだと、本当の意味で理解できた気がした。


それからもう一つ、私が抱かずにいられない感情があった。それは、ほんの少しの優越感。

サイボーグと揶揄されるほど、仕事中は無表情で無感情の、ドクター時任のこんな姿は、誰も知らないし、絶対に教えたくない。

ねえ、類さん。

あなたの素顔は、私だけが知っている、宝物です――。










ドクター時任は恋愛中毒

END



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