ドクター時任は恋愛中毒


「くだらない用事で掛けてくるなよ」

「くだらないって……たとえばどんな?」


怪訝に思いながら聞き返した私に、時任先生は顎に手を当てて少し悩んでから、真面目な顔をして突拍子もないことを言い出す。


「俺を、デートに誘う、とか」

「え」


……ど、どうしたんですか、急に。


「声が聴きたかっただけ、とか」

「あの」


ちょっと待ってください。私別に、そんなつもりは……。


「とにかく恋愛方面は困るから、それだけ気を付けてくれ」


な、なんなの……そのスペシャルに自意識過剰な忠告は。

別にそんな用事で連絡する気はちっともなかったけど、電話番号を受け取ってせっかく嬉しかった気持ちが、急激にしぼんでいく。ついでになんだか腹も立ってきた。

なにさ、“お前に興味がある”とか言って、こっちの気持ちかき乱しといて。

家までついてきて、優しくして、お弁当も完食して……結局はそれですか。



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