ドクター時任は恋愛中毒


そう言って苦笑した真帆を見て思う。

連日の寝不足や、胃腸炎騒動で苦労したにもかかわらずそんな風に思う彼女は、きっと将来素晴らしい母親になるだろうな。


「いい予行演習になったんじゃないか? いつか俺たちの子をもうけたときの」


ごく自然に、彼女と俺と、千緒のような赤子の姿を想像しながら俺は話す。真帆も同調してくれるとばかり思っていたのに、どうしてか困惑顔だ。


「い、いま時任先生、すごいこと言いませんでした?」

「なんだ、欲しくないのか?」

「ち、違いますって! そうじゃなくて! なんか、いろいろすっ飛ばしているような……」

「……? 確かに繁殖活動はまだしていないが」

「そういうことじゃなくて! ……無自覚のようなので、もういいです」


はぁ、と疲労の滲んだため息を残して、真帆は車を降りていく。その後マンションに入るまでの間もこちらを振り返ることはなく、俺は急に不安にさいなまれた。

なぜ彼女は不機嫌なのだ……? さっきの会話に何か問題が?

どれだけ頭を捻っても答えがわからず、せっかく楽しかったデートの帰り道、俺はずっとモヤモヤしながら車を運転する羽目になった。


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