ドクター時任は恋愛中毒
どうせ演技だと思うのだけど、断ったときのことを思うと良心がチクチク痛む。
私は短くため息をつき、仕方なく呟いた。
「……少しなら」
「ホント? ありがとう! じゃあさっそく行こう!」
パッと表情が華やいだ航河さんに無理やり腕を掴まれ、引っ張られるように栄養部をあとにする。先輩方は呆気にとられたように私たちを見送っていた。
病院を出るとすぐにタクシーに乗せられ、航河さんが運転手に告げたのは白金台のとある住所だった。
「そこに何があるんですか?」
「んー? 僕のお城♪」
楽し気に微笑まれるけど、私は「えっ」と固まってしまう。
城ってことは自宅? この人の家なんて、絶対ついてっちゃダメでしょ……!
一瞬にして警戒心を張り巡らせる私に気付いたのか、航河さんが手をひらひら横に振って説明を加える。
「あ、安心して。家じゃないから。ていうか僕まだ名古屋の実家住まいだし、今は天河のマンションに居候中なんだ」
「そ、そうでしたか……」
全く、ハラハラさせてくれるんだから……。胸をなでおろす私の横で、航河さんが話を続ける。