漢江のほとりで待ってる


場所は離れて韓国。

雅羅と椎名が本家に戻る三日前のこと。

二人は鍾路区にある、珉珠の母のボランティア事務所にいた。

珉珠の母は、この時訪ねて来た女性が、高柳グループの社長の妻で、慶太の母親であると初めて知る。

挨拶もそこそこに、歓迎というより重々しい空気が流れた。

「時間も急いているので、何のためにこちらに来たか、本題に入らせて頂きます」

そう切り出したのは慶太の母、雅羅だった。

さらに、

「こちらに長年、寄付金をされている方がいらっしゃるとか……素性も分からいそうですね?実はその方を私共は知っております」

それを聞いて珉珠の母は驚いた。椎名は顔色一つ変えず俯いたまま話を聞いている。

「そのお方は誰なんですか?感謝の言葉も言えず、途方に暮れておりました」

「実は……それうちの息子なんです。なんて、ほほほ。寄付金を十年も続けたお方のことを、うちの息子と断言して頂きたいのです!それをお願いするため、わざわざ参りました」

「ど、どうしてそんなことをしなければならないのですか?全く意味が分かりません」

「ふふ。約束して頂けるのであれば、こちらの事務所を全面的にうちがバックアップさせて頂きます。うちの会社にあなたの娘さんが働いていらっしゃるでしょ?それと~うちの息子とあなたの娘さんを結婚させたいと思うのです。寄付金の相手が慶太なら彼女も感謝感激でしょうし、娘さんの将来も安泰。申し分ないでしょ?それにこんないいお話は無いと思いませんか?」

「もしそれを、お断りしたら?」

珉珠が会社にいられなくなることや、彼女の将来がどうなってもいいのか、など、それだけでなく、この事務所も無くなってしまうかもしれないような含みを込めて、

「その辺はお分かり頂けるかと……それと息子は近々、政界に入ることになると思います。このお話、お受けた頂いた方が後々何かと良いと思いますけれど……あと、近いうち二人を挨拶に来させますので、その時は宜しくお願い致しますね?それではごきげんよう!」

雅羅は冷ややかな目でさらりと答え、優雅に一礼をして事務所を後にした。

去り際、椎名は菓子折りを置いて行った。

珉珠の母は、それが何を意味するかすぐに理解できた。

頂けないと菓子折りを返したが、強引に置いて行った。

雅羅の条件は、断りはしなかったが、承諾もしていない、でもほとんど脅迫だった。

珉珠の母は迷っていた。それ以来悩み続け頭を抱える日々。



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