漢江のほとりで待ってる


この日以来、睡眠時間を削って、由弦の看病をする珉珠の体を気遣いながら、弦一郎や一条も交代で看病をするようになった。

マーケティング部の江南課長を始め、仲里、甲斐、部もメンバーが見舞いに訪れたりした。

江南は少しやつれた珉珠を見て、

「安心したわ。あなたも人間だったみたいね?綺麗で仕事も出来て、日々淡々とこなしてるだけの、感情がないロボットみたいと思ってたけど。彼はきっと大丈夫よ!はぁ~、女が伊達に仕事出来ると、会社では煙たがられるのよね。また年を取ると余計仕事が出来ると思われるから、こなす分が誰よりも多くなる。なぜって出来る女だから!?周りは何も出来ない口ばっかりのひよこしかいないから。そのくせ直接的には結婚の話は誰も言って来ないけど、物凄く肌に無言の威圧的なものを与えて来るのよ。それがチクチクと痛いのよ!「早く仕事辞めろ!辞めろ!」って言われてるようで。何だか愚痴になっちゃったみたいね。あなたには期待してるのよ!年下の男を夢中させた、あなたはアラサーの星なんだから!!アラサーの、年上の女の魅力を発揮して頂戴!!」

言われた珉珠は俯いて笑った。

江南の言葉で少し気が楽になったようだった。

それから時間は過ぎて行った。

変わらず珉珠は、由弦の髭をそってやったり、顔を拭いてやったり、手をマッサージしてやったり、話しかけたりと毎日毎日看病をし続けた。

落ち着いた時間、いつものように手を握りながら、耳元で、

「由弦、今日も大好きよ~」

話しかけていると、由弦が軽く握り返して来た。

「……!?」

見ると、指がぴくりと動いた。

「由弦!わかる!?由弦!」

「ん……あぁ……はぁ……」うわ言を繰り返す由弦。

薄っすらと目が開いた。

「由弦!由弦!!」

珉珠が名前を呼び続ける。

開かれた由弦の目は、声のする珉珠の方へ向けられた。

「由弦……」

十五日目の朝、由弦は意識を取り戻した……


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