漢江のほとりで待ってる

「どう言われても仕方がありません。組織に抑圧されたなんて、言い訳にもならない」

「そうだな。君の犯した罪は大きい。由弦君の二五年間という歳月は取り戻せない。まして幼い時の愛情不足など、この子が欲した数は二度と補えない!未だこの子は、その時の淋しさを埋められないが故に、憂いのある目をする。それはとてつもなく苦しいだろう。あの時、琴乃と由弦君を手放した私にも責任はある。あとの残りの人生を、私の人生を賭けてでも幸せにしてやりたい。だから由弦君を小田切家の跡取りとする。これは弦吾氏とも話はついている」

「お義父様!」

「由弦君が望むなら、高柳グループを吸収合併だってしても構わないと思っている。そして、苦しめた者共を追い出してもいい」

「それは!」

「この子をここまで追い詰めて、君は気付かなかったのか?そうとは言わせないぞ!私の孫を殺そうとまでしたんだぞ!例え由弦が許しても私が許さん!」

この時、由弦は何も言わなかった。

丸一日経過し、異常がないと分かった椿氏は、由弦の体のことを考え、一刻も早く血塊を取り除くために、渡航書を発行し、日本へ連れて帰った。

由弦が退院したあと、残された慶太達に、病院から、由弦が着ていた衣服が返された。

その時の看護師に、「シャツのポケットにこれが」

見ると、万年筆だった。

それを見て慶太は、驚いた。

その万年筆は、去年の誕生日に、珉珠と一緒に選んで貰って、自分が由弦に送ったものだった。

「あいつはこんなものを大事に持ち歩いていたのか。それなのに私は……なんて兄だ。もう誕生日も過ぎてしまってるじゃないか」

慶太は、事故から今日までのことを思い返し悔やんだ、兄らしいことを何一つしてやらなかったと。

「後悔後を絶たずだ」

まさにその言葉だった。

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