漢江のほとりで待ってる

「そうだな、あれだけのことをしておいて、いきなり心入れ替えました、だから許してくださいなんて、気持ちを押し付けているようなものだものな」

慶太も由弦の気持ちを察した。

皆俯き、それぞれ自分のして来たこと思い返していた。

「きっと兄貴達のことは一生許せないと思う。普通に歩けるようにはなったけど、絵はまだ思うようには描けないし、前のように野球は出来ない。自暴自棄になった時、(事故のこと)思い出してまた兄貴達を恨んだりすると思う。でも、それだけに力を注ぐのはとてもしんどいし辛すぎる。正直、疲れた。その恨んだりするエネルギーを、今度は愛情に変えて、大好きな人に向けたい。その人が両手を広げてオレを包んでくれるなら、その人の胸の中にオレの全てを委ねたい。オレは人並みに幸せになりたい。それを珉珠さんと叶えたい。もう時間をこれ以上くだらないものに費やしたくない。彼女と離れる時間を作りたくない。何も無駄にしたくない。確かに、恨むことでそれが生きる糧になってた時期もあった、けど心は何一つ満たされることはなかった。苦しくて淋しくて死にそうだったよ。復讐の先には喪失感と孤独しかなかった。そんなこと分かってたんだけどな。だから待っててほしい、オレがみんなに笑って話せる日が来るのを。きっとオレ自身も、心のどこかで分かってると思うんだ、許すことを覚えなきゃいけないってこと。完璧な人間なんていない、オレもそうだし。だからもうオレに気を使わないで」

「由弦、ありがとう。そこまでお前を追い込んだのは私達だ。許さなくていいんだ。私達は人としてしてはいけないことをしたんだから。許さなくていい代わりに、認めてほしい。本気でお前と向き合いたいと思っていること、反省していること、償いたいと思う気持ちを。そして、お前を心より愛していると言うことを」

「父さん……」

「二度と同じような事を繰り返さないと、誓った私達の生き方を見ていてほしい、お前のその目で」

弦一郎が、今まで見せたことがなかった、とても優しい眼差しで、由弦をそっと抱き締めた。

慶太や雅羅も、それを見守っていた。

それから、それぞれが、そこそこに平穏な毎日を送る中、

「暑かったでしょう?さぁ、召し上がれ!あなたが来ると思って、冷やしてたのよ?やっと手作りのジンジャーエールを振舞えるわ~」

珉珠が嬉し気に言う。

「ありがとう!……冷たくておいしい!」満面の笑みの由弦が返す。

由弦と珉珠の細やかな幸せがあったり、

「これ以上私にどうしろ言う!?教えてくれないか?」

「はぁ~っ!ほんっと副社長って女心が分かってないんだから!」

やっとデートまで漕ぎつけた不器用な慶太と、性格はきつそうに見えるが、ほんとは一途で乙女な仲里の恋愛模様があったり、色んな所でそれぞれの時間が繰り広げられていた。

そして瞬く間に時間は経ち、色付いた葉は、風に揺れ舞い落ち、世間はイルミネーションに彩られ、あんなにも暑かった陽射しが嘘のように、皆厚手のコートに身を包んで、その時を待っていた。

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