漢江のほとりで待ってる


珉珠の手を握った瞬間、なぜか由弦は運命的なものを感じた。

目力は強いものの、その瞳の奥には温かなものを感じた。

そんな彼女に由弦は釘付けのまま、手をなかなか離さない由弦に、珉珠は不思議そうな顔をして見つめた。
「どうかした?」と言っているような珉珠の視線に気付き、慌てて手を離した。

「あ! すみません!」

「どうした? 由弦?」

「い、いや、青木さんがあんまり綺麗なんで見とれてた」

どぎまぎする由弦の態度に、慶太も気付き心配そうに話し掛けた。
焦りながらも、笑って答えた屈託のない由弦の笑顔に、珉珠も少し俯き、はにかんだ。兄の慶太は子供らしい反応する由弦を可愛らしく思った。温かなひと時が流れた。

何となく珉珠も由弦に対して親しみを感じていた。二人見つめ合い、互いに笑顔を見せた。

「来てすぐに仕事の話で申し訳ないが、由弦、お前にやってほしいことがある」

仕事の顔に戻った慶太が由弦に放った。
その内容とは、由弦がアメリカにいる時に作ったCMがかなりの話題作で、彼が手掛けたCMの商品は必ず売れるという伝説があった。その噂、活躍を聞きつけて、日本の企業が由弦にCMを作ってほしいという内容だった。

慶太の狙いは二つあった。一つはこれを成功させ、我社、B.A.Bを革新的なものにしようとする企みと、新たな層を引き込むため、広告代理店の革命を起こそうとしていた。そのため、由弦を呼び戻したのだった。

「お前をコネ入社と思わせないためにも、今度のCM作成、やってみないか?」
慶太は由弦を煽った。由弦見ると、あまり乗り気ではなさそうだった。

 
「いや、と言うのも今度、Awaken株式会社とコラボする企画が進んでいる」
試すように由弦の顔を覗き込んで慶太言った。あえて会社名を出したのは、由弦の反応を見るためだった。
案の定、その車名を聞いた途端、由弦は反応した。慶太の顔を真剣な目で見つめた。

Awaken株式会社tとは、由弦の友人が経営する会社だった。社長と由弦は同級生で、学生時代は同じ学部で学び、切磋琢磨した中。慶太はそれを知っていてあえて、由弦に持ち掛けた。
Awakenは若者層の支持者が多かった。慶太はそれにも目を付けていた。その会社のブランド、Mecha-Kakusei(めちゃ覚醒)の、上海進出を記念して、Awaken株式会社とコラボする企画を企んでいた。

「デザイナー兼社長が直々にお前を指名した。今回のCM作成にも力になりたいとのことだ!あの会社は若者層が多い!これまでの当社の保守的なイメージを払拭させるためにも、これを機に、新しく生まれ変わったと、大々的にアピールしたい! 由弦、お前の力が必要なんだ」

皿に一押しに言葉を付け加え、最後を特に強く言った慶太。

「あぁ、そう言うことか。会社のイメージアップに貢献しろいうことか。 それにオレもコネなんて思われたくないしな~。分かった! やってみるよ!」

ぼやくように由弦は言った。慶太の目標が一つ達成された。ニヤリと笑う慶太。
今回の企画は、全て調べ尽くされていた。由弦とAwaken株式会社の社長が同級生であることも知って言いながら、知らないふりをした。慶太の仕事はいつも入念に調べ尽くされて、先を見越している。成功するためなら、親兄弟でも道具として使う。成功するためなら、情は捨てる。
これが彼の主義だった。

「そうか! そう言ってくれると思っていたよ! そうなればチームを編成……」

「制作チームの選定はオレにやらせてほしい!」

それだけは譲れないという顔で懇願する由弦。メリットのためにその願いを聞き入れる慶太は、顔を緩めて承諾した。

「そうか。分かった。この件は全てお前に一任しよう。宜しく頼んだぞ! 他に何か必要なものがあれば、青木君に伝えてくれ! 出来る限りのバックアップはしよう! 青木君も頼んだよ!」

「かしこまりました。副社長」
珉珠の顔も、またクールな瞳に戻った。

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