〜starting over〜

「俺、結婚するんだ」

突然の告白をした。

「あ、おめでとう」

不意をつかれて、反射的に祝福をする。

「ありがとう。それで、来月式を挙げるんだけど、妻が杏にも参加してもらえないかと」
「奥様になる方は、私の知ってる方?」

まさか、中学か高校の同級生とか?
私をMuseの杏と知ってて指名するなら、ちょっとミーハー感が否めない。
大丈夫なの、その奥様は?と心配になってしまう。

「玲奈……なんだ。今妊娠2カ月に入ったところで、お腹が目立つ前に式を挙げようって事になって」

玲奈。
脳裏に玲奈との記憶が蘇る。
小さい頃からずっと一緒だった玲奈。
私と付き合っているのを知ってて、真輝と寝た玲奈。
親友だと思ってたのに、私を裏切った……。
腕組みした手で震える身体を押さえる。

―――眩暈がする。

「無理。約束の10分ね。悪いけど、失礼します。CMは打ち切って貰ってもいいから」

それだけ言い残すと、呼び止める声を無視して店の外にでた。
三浦マネが近くで待機、なんて期待をするけど、帰っていいって言ったから素直に帰宅しただろうな。
ガタガタ震える身体を叱咤して、タクシーが拾えそうな所まで移動しようと思うのに、足が思うように動かない。

「大丈夫か?」

私の肩を抱いて支えてくれたのは、追いかけてきたらしい真輝だった。
大きくがっしりした手。

玲奈を抱いた手――――。

「触らないで!」

払いのけたのに、グイっと掴まれる。

「俺達を……許せないのは解る。だけど、玲奈も苦しんだんだ」
「私だって苦しんだ!」
「さっきから、自分達の都合ばかり。私の気持ちは何処にあるの!?真輝が浮気ばかりするからっ。苦しくて苦しくて、悲しくて辛くて、毎日毎日、学校行くのが嫌だった。真輝だけじゃない。親友だと思ってた玲奈にさえ裏切られて、その上結婚式に出席しろだなんて、どんな仕打ちよ!」

押し黙る真輝に、私は吐露がとまらなくなった。

「華やかな世界に居るからって、私が何ともないように見えるの?この世界は明日をも解らない世界なのよ?毎日新しい原石がデビューして、どんどん輝いて。その光に飲み込まれたら、居場所なんてすぐなくなっちゃうんだから。1つ1つの仕事が大事なの。1人1人とのつながりが大事なの。1つの失敗が多くの人に迷惑をかけて取り返しがつかなくなるの。真輝のせいで私が世間からどんなバッシングを受けたか知らないでしょう!?それでも、どんなに心をすり減らしても、手足がもげそうになっても、進むしかなかったのよ!」
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