イジメ返し3
母からの暴力は収まることを知らない。

何かにつけてあたしを叩いた。

その反動で、あたしは幼稚園で母と同じ行為を働くようになる。

そのターゲットはクラスで一番弱い桃という女の子だった。

大人しくていつも教室の隅にいる目立たないタイプの子。

好む遊びもタイプも全く違う桃とはほとんど話したことなどなかった。

でも、ある日の保育参観での桃たち家族の和気あいあいとした仲の良さげな楽しそうで和やかな雰囲気にあたしは無性に苛立った。

保育参観は、大きくなったら何になりたいかをテーマに一人づつ発表することになっていた。

変わり者のカンナは『ママに親孝行をするために立派な大人になりたいです』と話してみんなを驚かせた。

みんなが『サッカー選手』や『ケーキ屋さん』などと将来の夢を並べ立てている中、桃は小さな声で恥ずかしそうにうつむきながら『パパとママみたいな優しい人になりたい』と言った。

それを聞いて涙を浮かべている母親に、桃の姿を必死でビデオカメラに収めている父親。

桃の発表が終わると、桃の両親は大そうなことでも成し遂げたかのように全力で拍手を送っていた。

あたしはなりたくもないのに『女優』と答えた。

母がいつも『アンタ、子役になって金稼いでお母さんに色々買ってよ』と話していたから。

そう言えば母が喜んでくれるような気がしたから。

母の反応を知りたくて、ロッカーの前に立っている保護者の中から母を探す。

でも、母はあたしの発表なんて聞いていなかった。

視線はスマホの画面に落とし、一生懸命画面をタップしている。

最近ハマっているスマホのゲームでやっているんだろう。

悔しくてギュッと拳を握り締めると、あちこちから拍手が聞こえた。

必死になって拍手を送ってくれたのはカンナと桃の母親だった。

カンナと桃の両親は真っ直ぐあたしを見つめたまま、拍手を続ける。

まるで、偉いね。とかすごいね、とあたしを讃えてくれているかのようだった。

グッと奥歯を噛みしめる。

悔しかった。自分以外の子供の発表も真剣に聞いて拍手を送る母親がいる一方、自分の子供の発表さえ聞いておらずスマホをいじる母親。

あまりに対照的なその姿に胸に込み上げてきたのはどうしようもない嫉妬と怒りと憎しみだった。
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