イジメ返し3
「カンナのお母さんって、幼稚園の時に薬飲んで自殺したじゃん?しかも、発見したのアンタでしょ~?悲惨すぎー。ドラマとかによくある展開だし」

美波はヘラヘラとした笑みを浮かべながら当時の話をする。

今すぐにチークでオレンジ色になった頬に拳を叩き込みたい衝動に駆られる。

その髪の毛を掴んで、教室中を引きずり回してやりたい。

でも今は我慢だよ、カンナ。我慢しなくちゃ。必死に自分を抑える。

「あの頃、ちょっとした騒ぎになってたもんね!」

カンナに同情している様子などみじんも感じられず、あたかも身近で起こったセンセーショナルな出来事を思い出して楽しんでいるような口ぶりだった。

親を自殺で亡くしたカンナの気持ちを逆なでするような美波の態度に苛立つ。

「え……そうなんだ……」

美波の話を聞いたクラスメイト達は絶句し、一斉に哀れんだ目を向けた。

今日初めて顔を合わせたクラスメイトですら母親を幼くして亡くしたカンナに同情心を抱いてくれていているというのに、この女は。

「でもさぁ、なんかもう吹っ切れてるみたいだしよかったじゃん」

よかった、と笑いながら言った美波は、上から目線で話を終わらせようとしているようだ。

カンナのママの話になんて興味ない?

ママは確かに12年前、カンナが幼稚園の年長のとき大量の薬を飲んで自殺した。

ソファの上で仰向けで寝転んでいるママ。

だらりとソファから落ちた右手。

テーブルの上のグラスと空のペットボトル。

床に転がる薬と、薬の空き瓶。

冷たく青白い顔、薄紫色の唇、口の端についた白い泡。

その壮絶な状況の第一発見者は美波の言う通り確かにカンナだった。
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