アヴァロンの箱庭
崩壊
幼い少女の襟首を掴んだまま、真冬は茫然とその場で立ち尽くしていた。
 
僕が……やっただって? そんなことはありえない。

僕がそんなことをするわけが――

「戸惑っているの? だったら教えてあげる。真冬が閉じ込めたのはお姉ちゃんだけじゃない……この雪原で氷漬けになっている無数の人たちも全部、そうだよ」

「全部……そう? 何を言っているの? ぼ、僕は何も知らない。僕はただ、この世界に迷い込んだだけで……!」

「そう思いたいだけだよね? 本当は自分で創って、そして自分からやって来たはずなのに」

「僕が、創った……?」

「だから言ったじゃない。マフユと私は絶対に、アダムとイブにはなれないよって」
 


その瞬間、真冬はイブの襟首を放してよろめきながら後ずさった。


 
分からない……分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分かりたくないッ!


 
両手で頭を抑え込むと、自然と嗚咽が漏れた。

降りしきる雪の中、真冬は荒い息を吐きながら氷に閉ざされた銀髪の女性を凝視する。
 
よく見るとその顔は……その顔は……僕にとっても大切な誰かの顔だったんじゃないのか?

「……やっと気づいたの?」



イブもゆっくりと立ち上がると……舞い落ちる粉雪の向こうから静かに真冬を見つめた。
 
それは、とても穏やかな静寂だった。

辺りは全くの無音で満ちていて、空は曇りガラスの様な雲に覆われていて、その雲が落とした影が辺りを白と灰色の絵の具を混ぜたかの様な色で染め上げて――

そして、降りしきる粉雪は二人を優しくそっと包み込む。

そんな、今にも泣きだしてしまたいくらいに静まり返ったその箱庭で……イブは、寂しさを押し殺したような儚い声で呟いた。



「ずっと会いたかった……お兄ちゃん」
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