藤堂さん家の複雑な家庭の事情

ケーキ

藍子は特別甘い物が好きという訳ではない。


確かに嫌いではないし、あれば喜んで食べるのだが、甘い物を見ただけで妙にテンションが上がるだとか、無性に食べたくなる時があるという事はない。


が。


「あっ、ケーキだ」

期末テスト前日。帰宅した藍子が目にしたのはイチゴのショートケーキ。


食卓の上に並べられた晩ご飯と一緒に、イチゴのショートケーキが置かれている。


それを見つめていた藍子に、キッチンで洗い物をしていた心実は、振り返りもせず「それ、あんたの分だから食べていいよ」と告げた。


「あたしの?」

「そう」

「琢ちゃんのは?」

「琢はもう食べた」

「お姉ちゃんのは?」

「もう食べた」

「トワさんは?」

「惣一郎は甘い物食べない」

「このケーキどうしたの?」
< 169 / 416 >

この作品をシェア

pagetop