藤堂さん家の複雑な家庭の事情
「マジですよ。懐かしい人も何人かいましたよ」

「……」

「びっくりでしょ? 俺もびっくりして翡翠さんに『何かあったんですか?』って聞いたんですけど、翡翠さん『何が?』って言うだけで何も教えてくれないんですよ。うちってそんなに売り上げ悪いんですかね?」

「いや、そんな事は……」

「ですよね? 最近そこそこ調子よかったんですよ。なのに何でかなぁ?」

独り言のようにそう言って首を傾げた海斗を見つめながら、翡翠はそんなに金が必要なのかとトワは眉を顰めた。


急ぎで金が必要な場合、動く金の多さから考えてバーよりホストクラブで働く方がいいという道理は分かる。


翡翠がその気になれば、【Kingdom】の一日で【Crown】数日分の売り上げを作る事も出来るだろう。


だから「金がいる」という理由で翡翠が【Kingdom】に行くのは理解出来るのだが、昔の客に営業を掛けるほど金が必要な理由が分からない。


海斗が言うように、オーナーになってからの翡翠は、【Kingdom】ではヘルプについている事が多かった。


たまに客を呼んだとしても、ここ何年かでついた新しい客だけで、一度「ホストを辞める」と告げた昔の客に営業を掛ける事はしなかった。


それもやっぱり翡翠なりのケジメのつもりなんだろうとトワは思っていた。


一声掛ければすぐに来てくれるだろう昔の客を呼ばない事が、翡翠のプライドでもあるんだろうと思っていた。


なのに今回は、そのケジメもプライドも捨てたらしい。
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