藤堂さん家の複雑な家庭の事情

5日目 夜

姉が非常にブチギレていると、補習から帰った藍子はすぐに思った。


特別藍子に何かを言ってくる訳でも、八つ当たりのような事をしてくる訳でもないが、心実の全身が怒りのオーラに包まれ、酷くピリピリしている。


もしもオーラというものが目に見えて分かるものなら、きっと業火《ごうか》のようなものなんだろうと藍子は思う。


「お姉ちゃん、何かあったの?」

琢が眠るのを待って藍子がそれを口にすると、心実は「何が?」と聞き返す。


だけどその声は酷く刺々しく、「何かあった」と言ってるようなものだった。


心実はそれにすぐに気付き、隠していても意味はないと諦めて、ダイニングテーブルの藍子の前の席に座る。


麦茶を飲んでいた藍子は、パチパチと瞬きをして、怒りの業火に包まれる心実をジッと見つめた。


そんな藍子に心実が一言目に言ったのは、「意味が分かんないのよ」という意味不明な言葉。


そして続けて「何がどうなってんの?」と聞かれたから、藍子はすっかり困ってしまった。


姉が何の話をしているのか藍子には微塵も分からない。


だけど何となく「何が?」と聞いてはいけない気がして、「うん」と適当に返事をした。
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