藤堂さん家の複雑な家庭の事情

予定外の出来事③

中学生の時に痴漢に遭って以降、遅くまで遊んだ事が全くない訳じゃない。


友達の誕生日に遊びに行く時とか、クラスの親睦会の時とか、前もってお兄ちゃんとお姉ちゃんに伝えて、迎えに来てもらう事前提で、遅くまで遊んだ事はある。


でもそういう場合でも、遅くても9時には帰宅してた。


迎えに来てくれるのが、お兄ちゃんかお姉ちゃんかトワさんだから仕方ない。


お兄ちゃんとトワさんは夜仕事だし、お姉ちゃんは琢ちゃんを寝かせなきゃいけないから、あんまり遅くに迎えに来てとは言えない。


だから、井上先生が送ってくれる前提でのカラオケは、時間を気にしなくていい分、いつもより楽しかった。


カラオケ店にあたしが戻って来た時は、みんなびっくりしてたけど、疑問は戻ってきた事じゃなくて、どうして井上先生と一緒なのかって事だった。


駅まで追い駆けてきてくれた井上先生は、みんなに何の説明もしなかったらしく、ただ「ちょっと先に行ってろ」とだけ言って、みんなから離れたらしい。


そんな井上先生があたしと戻ってきたら、そりゃ誰でも不思議に思う。


井上先生とあたしの間に何かあるんじゃないかって、冗談か本気か分からない疑いまで掛けられそうになった。


でもそこは井上先生が難なく切り抜けた。


最初から考えてたのか、ただの思い付きかは分からないけど、井上先生は昔からあたしのお姉ちゃんの知り合いなんだと嘘を吐いた。
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