藤堂さん家の複雑な家庭の事情

一日の終わり

『今、電話いい?』

久しぶりに電話をしてきてくれたお母さんの最初の言葉は、いつもと同じ小さな声での問い掛けだった。


何が確認したいのか知ってる。


今あたしがひとりでいるかどうかを気にしてて、時間的にもそうであろう時を狙って掛けてきてる。


そんな風に、お兄ちゃんとお姉ちゃんを気にしすぎるから余計にギクシャクしちゃうじゃないかって思うけど、そんな事は言えないから、「うん。大丈夫だよ」とだけ答えた。


『元気にしてる?』

ひとりでいるって事に安心したらしく、お母さんは普段の音量になった。


元々から声が小さいから、最初から音量を抑える必要はないのにとは思う。


でもお母さんの気持ちはお母さんにしか分からないから、余計な事は言えない。


「元気だよ。今日、友達とプールに行ってきた」

『そう。よかったね』

「うん。プールの後にカラオケも行って、凄く楽しかった」

『カラオケ? 藍子、上手く歌えるの?』

「歌えるよ? 上手くはないけど。お姉ちゃんが言うには、あたしって不思議な音階の外し方をするんだって」

言った直後にお姉ちゃんの話題を出してしまった事を後悔した。


普段から会話の中に家族の話題を出す事が多いから、当たり前に出してしまう。
< 400 / 416 >

この作品をシェア

pagetop