冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
「俺、あのとき、よりによってこれから家族ができるってときに、こんな仕打ちないだろクソ親父って考えてたんだよ」

「そうなの?」


思わず笑うと、了も表情を和らげた。腕を回して、私を抱き寄せる。


「でも、もしかしたら逆かなあと思って。家族がいるから、俺もポキンと折れずに済んだのかもしれない。父さんも、それがわかってたのかも」

「私、お母さまと少しふたりでお話しする時間があったの。同じようなこと言ってらした。お父さまがホールディングスの幹部たちの前でも、いっさい了をかばわず、一番厳しい処断を下したのは、了が父親になろうとしてるからだって」

「ほんと?」

「男ってかっこつけでバカよねえって一緒に笑ってきたわ」


了はふくれ、「かっこつけでバカだよ」とおもしろくなさそうな声を出す。了はカップ半分ほど残っていたコーヒーを一気に飲み干した。


「よし、結婚にはふたりとも前向きってことだな」

「具体的なことを話せるタイミングじゃなくなっちゃって、残念だったわね」

「どうせ父さんは、そういう話ははっきり語りたがらないよ。優れた経営者も、家じゃただの偏屈親父だよね」


その言いかたが完全なる他人事だったので、私は釘を刺した。


「あなたもいずれ、同じことを言われるようになるわよ」


了は生真面目に、その可能性について頭の中で検討したらしく、真剣な顔で宙を見つめ、「ほんとそうだね」とつぶやいて、また私を笑わせた。

ようやく三人がそろってゆっくり眠れる夜が訪れるかと思いきや、了はまた「事務所に行かないと」と家を出ていった。

今の了に、それをがんばりすぎだと言うことはできない。

玄関で見送る私に、了はキスをした。不甲斐ない自分を恥じているような、控えめなキスだった。

どんな了も好きよ。

そんな思いを込めてキスを返した。


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