冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
「うん。電話じゃなんだから、顔を合わせてと思ったんだけど。それとも、今ここで言ったほうがいい?」

『えっと、いや、ええっと……』


久しぶりに耳に流れ込んでくる、電話越しの了の声。私はこの声が大好きで、会う時間をとれないときは、どんなに短時間でもいいから電話をしたがった。


『……ダメな返事なら、今聞きたい。顔見てるの、つらいから』


本当にいいのね? 今の私でいいのね?

あの分岐点に、戻れはしないけれど。あの頃見えていた未来が、すぐそこにある。私が投げ捨て、了があきらめずに持っていてくれた未来。

気弱な声を出す了に、私は笑いながら伝えた。


「じゃあ、明日ね」


* * *


「ぱぱ!」

「そうだよー、パパだよー」


寝室の姿見の前で服装をチェックしながら、私は引き戸の向こうの了に言った。


「適当なことを教えないでくれない?」

「事実だよ!」


まったく、これから向こうの両親へ挨拶に行くというのに、すっかりでれでれだ。

もう一度鏡の中を見た。いまや一張羅となった、セットアップの黒のスラックスと白いブラウス。うしろでひとつに束ねた髪は、美容院に行ったばかりだからつやつやしている。

久しぶりにピアスをすることにした。控えめなパールのピアス。これであれば恵の気を引くこともないから、抱っこしてもお互い安全だ。
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