冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
私は噴き出し、「ですね」と同意する。


「戦力になれるよう、勉強します。よろしくお願いします」

「こちらこそ。頼もしい方が来てくれてうれしい。がんばりましょうね」


拍手に包まれながら、頭を下げた。

冷たかった手が、高揚に火照っているのを感じた。




夕方、成果を出すような仕事はなにもしなかったというのに、くたくたになって家に着いた。

でも久方ぶりに企画の仕事に触れた影響でテンションは高い。この勢いで引っ越し準備をしてしまおう。


「ただいまー」

「おっかえりー」


玄関から居間をのぞくと、恵とまこちゃんがテレビの前で踊っているのが見える。安さだけでなく、こういうことも考えて一階を選んだのだ。正解だった。

靴を脱ぐ前に、背後でチャイムが鳴った。チャイムというよりブザーというほうが似合う、"ブー"という不躾な音だ。

のぞき穴に顔を近づけようとしたとき、ドア越しに声がした。


「早織さん、丈司です」


普段、この場所で聞く声じゃないため、一瞬混乱する。


「……ジョージさん?」

「お届け物です。お坊ちゃまから」


ドアを開けると、たしかにジョージさんが立っていた。スーツ姿で、封筒を手にしている。了の会社の封筒だ。


「それと伝言です。『あとで必ず電話する』と」

「はあ……」


封筒を渡され、私は居間のほうを気にしながら、その場で中を確認した。恵の前で見るものではないと、ジョージさんの気配が言っていたからだ。

日付が肩の部分に入ったコピー用紙が二枚入っていた。FAXで受信したものだ。一般家庭でも絶滅しかけているFAXは、なぜか法人がしつこく使っている。

雑誌記事の原稿だった。写真が入るのであろう部分は空白で、なにか殴り書きしてある。もう一枚が写真だった。

写っているのはひと組の男女だ。男性はどう見ても了。若い女性は見覚えがない。けれど記事のほうにしっかり書いてあった。


『女性ファッション誌"Selfish"専属モデル、芸能事務所社長と自宅デート』


深いため息が出た。

どうやら、どこかのだれかが本気を出したらしい。




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