冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
速水さんの鋭くも楽天的なコメントに、了はなにも言わず肩をすくめた。私はまた、なにかが頭をよぎるのを感じた。


「あっ……」


思わず声が漏れ、ふたりがこちらを見る。私は今度こそひらめきを逃がさないよう、慎重に頭の中を探った。


「そうだわ、目的よ」

「え?」


了が聞き返す。私は目の前の、どことも言えない空間を睨みつけたまま答えた。


「ちょっと妙だと思ったの。この記事が出たことで、了にどれほどのダメージがあるんだろうって。実際、インターナショナルの事業にマイナスはないわよね?」

「俺が迂闊な社長だって恥かいたくらいだね。もっと生々しい内容なら、モデルのイメージ毀損になっただろうけど」

「そこなのよ。犯人はなにをしたかったのかしら」

「記事を出させる力があると、思い知らせたかったのでは?」


速水社長が指を立てて推理を述べる。私はうなずいた。


「それもあり得ます。実際こちらは、警戒心が強まりましたしね」


だけど、ほかの可能性もある──……と考えたとき、了の胸ポケットで携帯が震えた。「失礼」と断り、了が取り出して開く。


「狭間です。はい……え?」


彼はなぜか、眉をひそめて私に視線をよこした。ちょいちょいと人差し指で招き寄せられ、私も携帯に耳を寄せる。事務所のアシスタントらしき、若い女性の伝聞調の声が聞こえた。


「うん、わかった。つないで」


内線機能も果たしている携帯らしい。了がボタンのどれかを押すと、ツ、ツ、という電子音がし、通話相手が変わった気配を感じた。


「僕です、狭間です」


抑えた声で、了が応答する。私は速水社長が興味津々に見守る前で、ぐいと携帯に耳を近づけた。
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