冷徹社長は溺あま旦那様!? ママになっても丸ごと愛されています
「了と結婚したい。絶対」


早口に言い捨てたつもりが、小さなわがままみたいな響きにしかならなかった。

ふっと手首の拘束が解け、私はおそるおそる目を開けた。

満足そうな了の顔があった。長い指が、頬の上のさっき甘く噛んだ場所を優しくなでる。「よくできました」偉そうな声が言った。


「知ってたけどね」


反論する前に、唇が重ねられた。柔らかく、じっと押しつけられる、温かい唇。"約束"のキスだと感じた。

それだけで終わらせるつもりがないのがわかった。だんだんと深く、噛み合う唇。開いた隙間から舌が差し込まれ、私の舌と絡んだとき、昨日私を抱きしめて離さなかった、了のあの身体の熱さを思い出し、心臓が鳴った。

優しくて熱っぽい、了のキス。

深い絡みは長く続かなかった。近いうちにね、と私にわからせようとした、そんなキスだった。

名残を惜しむように、甘く触れ合わせながら、了がとろとろと笑った。


「眠いや……」

「寝なさい。恵はもう、お風呂も済んで眠ってる」

「うん」


私は最後に、もう半分寝ている了の唇に、軽くキスをした。



翌日の夜、仕事中の了からかかってきた『帰れそうにない』という切迫した声の電話で、つかのまの平穏は終焉を告げた。

その数日後、彼の名前はけっしてうれしくない形で、今度はニュースサイトの記事を飾った。



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