争いの跡に

一方、シェリルはというと。

未だに、威圧の凄い二人に挟まれたままだった。

「そうだ。リルと僕の婚約が決定したんだよ」

「え・・・?」

「ええ?ええええええええええええええええっ!?」

一番驚いたのは、シェリル自身だった。

「あれ?女王様から聞いてなかった?昨日、正式に決まったんだよ」

「そ、そんな・・・」

『お母様・・・私、そんな話し聞いてないのに・・・』と、内心戸惑いを隠せないでいるシェリルの手を握ろうとしていたルイだが、チェイスがそれを振り払う。シェリルをまるで守る様に前に出た。

「リルは、俺が!!・・・」

『リルは、俺が守るっ!!』そう言いたかった筈なのに、口が動かない。

「俺が・・・なに?てか、キミがそれ言えるの?リルを傷つけた張本人クセに」

「な、なんで・・・お前がそんなこと知ってるんだよ」

ルイは、チェイスのトラウマとも言える過去を知っていた。彼は、何も言えずにただ歯を食いしばり拳を握り締める。

「リルを苦しめてるのはキミでしょ。キミの方こそもう、リルの中から消えてくれない?この化け猫」

ー パチンっ

ルイの頬に鈍い痛みが走る。下を向いていたチェイスが前を向くとそこには、自分の代わりに涙を流し彼の胸倉を掴みあげているシェリルの姿が彼らの瞳に映る。

「な、なんで?」

ルイは叩かれた頬を押さえて、シェリルの方を向く。

「許さない!!私の大切な人を傷つけるのは絶対に許さない!!」

「リル・・・」

「チェイスくんが何をしたのか私は、分からない。でもっっ!!過去なんてどーでもいい!!!今のチェイスくんが、私をわかってくれたの・・・寂しかった私の傍居てくれたの!!彼の存在が、私を救ってくれた。あなたにそれがわかる?」

シェリルは、チェイスへの想いを全て吐き出した。ルイの頬には、彼女の涙がポタポタと落ちていた。そんな彼女を目にしたルイは、胸が潰れてしまいそうな不思議な苦しさに襲われた。

「わかるよ・・・僕もそうだったから」

「え?」

「リルが先に僕のことを救ってくれたんだよ。だから、決めたんだ・・・キミを守れる男になろうって・・・そんな化け猫なんかに僕は、負けない」

「化け猫?何を言っているの?」

彼の言葉に何一つとして、理解が出来なかったシェリル。そんなシェリルを見て彼女の頭をそっと撫でて耳元でこう囁くのだった。

『また、今度ね』

彼女が握りしめてい手を取り、頭を撫でてやる。その時だった。シェリルの頭に流れ出す。自分の知らない過去の記憶。

『私ね!大きくなったら、〇〇くんと結婚するんだ!!』

『〇〇くん、大好きだよ!!』

『ずっと、傍に居てくれてありがとう』

そのまま、シェリルは意識を失ってしまう。

「リル!!」

慌ててチェイスが、倒れるシェリルを抱き寄せた。

「てめえ・・・リルに何しやがった」

「なにも?じゃあ、僕はそろそろ戻らないとだから。最後に、シェリルにキミは、相応しくないよ。まぁ、その忌々しい過去を消して欲しい時は、僕のところにおいで。」

「どういうことだ?」

「さぁー?じゃあ、またね・・・化け猫くん」

そのまま、彼は自分の城へと戻るのであった。

自分の腕の中で、まるで人形の様に動かないシェリルを見ながら先程ルイに言われた言葉が頭から離れない。

『シェリルにキミは、相応しくないよ』

そんなことは、分かっている。でも、彼女をシェリルがそれで救われるなら。チェイスは、所詮化け猫。無力な自分にフードの下から、流れる涙に誰も気が付かない。
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