珈琲プリンスと苦い恋の始まり
「もしもでいいんですけど、自分にも何も用事がない時は、一緒に何処かへ遊びに行きませんか?
遠出でなくてもいいんです。近場でも構わないから」


遠くに行ってて呼び出される可能性もあるし…と呟く真壁さんを見つめ、ドキッと胸の音が早鳴る。

こうしてお参りに来る度に、彼からは何度か誘われてるんだけど__。


「…ごめんなさい。土曜日は母に頼まれた買い物があって」


一緒に出掛けなければいけないんです…と嘘を吐く。
真壁さんはそれを嘘だとも思わず信じ込み、「そうなんですか…」と肩を落とした。


ショボくれる真壁さんを見てると罪悪感にも苛まれる。
でも、私は誰かと深く関わるのは嫌で……。


「すみません。…じゃあこれで」


失礼します、と頭を下げてお墓の前を立ち去る。
背中越しに真壁さんの視線を感じて、去り難いとは思うけど足を前に進めた。


こうして誰かに見送られる度に、私は何だか悲しい気持ちに陥る。

いつかは自分も先に逝った人達のように、皆に見送られる立場になるんだろうな…と思って。


< 145 / 279 >

この作品をシェア

pagetop