珈琲プリンスと苦い恋の始まり
フラつきそうなのを我慢してると、母が「どうぞ」と言ってスリッパを置くもんだから、私はハッとして、それを履かせないようにと制した。



「外で待ってて。もう出れるから」


二階から出勤バッグを掴んで階段を駆け下りる。
彼はまだ母に引き止められていて、私は靴を履くと、ぎゅっと彼の腕を引っ張った。



「行きましょ」


挨拶もそこそこに家を飛び出し、母はその後を急いで追おうとして来る。


「見送りはいいから！」


怒鳴って止めるとドアを閉めた。
ズンズンと歩いて敷地を出て、表通りに停まってる彼の車の前まで走った。



「心臓に悪いことはやめてよっ！」


息を切らして怒ると、彼は素直に謝ってきた。


「ごめん。早く愛花さんに会いたくて」


照れくさそうに断りを言う。
こっちはそれを聞くと呆れるしかなくて、弱るように目線を家の方に向けた。

門の前には、案の定母と昇平さんが立ってる。

二人はあれが昨夜の相手かと思うような眼差しでいて、私はくるっと背中を向けると、「急いで車に乗って！」と彼に言った。


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