珈琲プリンスと苦い恋の始まり
話すなら彼女の顔を見てからにしたかった。
彼女のことを抱き締めて、もう何処にもいかない、ときちんと約束をしてやりたかった。


(……でも、愛花さんは俺のことを嘘つきだと思ってるかもしれないな)


好きだと言って何処かへ行った馬鹿者。
乗せるだけ乗せて手を離した思われて、ひどく落胆をさせたかもしれない。


(帰っても無視をされる可能性が高いよな。それこそ最初よりも酷い仕打ちを取られて、俺が傷付くことだってあり得る)


それも仕方がないんだ。
俺は彼女のことを見守る筈が出来なかった。
たった一月とは言っても、その間に死が俺達を引き離す可能性だってあるんだから。


特に彼女は身近な近親者を二度も亡くしてる。
その死を間近で見て触れて、死はいつでも自分の隣にあるものだと信じてる。


俺はこれまでそれを実感として考えてこなかった。
だけど、この一月間だけは、それを思うとゾッとして、新店なんか放って、彼女の元へと逃げ出したくなった。


どうか元気で居て欲しいと願い続けた。
満天の星空を見てはそれを願い、流れ星を見つけては(頼む!)と手を組み合わせた。


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