珈琲プリンスと苦い恋の始まり
彼は照れくさそうな顔で「ただいま」と返し、「放って出てすみません」と謝った。


「いいですよ。こうしてちゃんと戻られたから」


何よりです、と返事すると、真面目な顔で「愛花さん」と呼ばれる。

私は持ってた半紙と硯を手離して、「何ですか?」と首を傾げながら声を返した。


衣擦れの音がして真壁さんが寄ってくる。

私はその姿を目に入れたままじっとして、手が差し伸べられる様を凝視していた。



「自分と付き合って下さい」


真壁さんは予想通りの言葉を言った。
私はそれを驚きもせずに受け止め、困ったように目を伏せる。


「分かってたと思うんです。自分が愛花さんに特別な感情を持ってたことは」


違いますか?と問われ、「知ってました」以外の返事なんて見つからない。


「分かってます」


声に出すと、ホッと安心されたみたい。

だけど、私はその息の音を聞き、自分の気持ちが少し分かったように感じた。


「あの、真壁さん…」


顔を上げると真っ直ぐ彼を見つめ直す。
何も無くしたくないと思う私が出す答えが、正しいと思わずに言った。


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