珈琲プリンスと苦い恋の始まり
残念そうに話す社長に「そうですか」と声をかけ、「仕方ありませんよね」と諦めた。


「老木でしたからね」


樹齢を聞いても間違いなく五十年以上は経っている木だった。

多分中身は腐って空洞化が進んでいただろうし、腐ってないにしても、解体する以外に持っていきようがなかった筈だ。


「そうなんですけどね、琴吹さんが言うには、樹木の状態はすこぶる良くて、直ぐに買い手が付いたんだそうですよ」


それは材木業者ではなく家具屋だと言いだし、そこの社長は、あの桜の木を使って新しい商品や椅子なんかを作ろうかと思う、と言っていた…と語った。


「椅子?」


「そうです。何でもオーダメイドで家具を作る会社みたいなんですけど」


「其処の電話番号は分かりますか?」


「琴吹さんに訊ねれば直ぐにでも教えてくれますよ」


連絡してみて下さい、と話し、それでは…と頭を下げた。


「ありがとうございます!」


振り返りざまにお礼を言った。
森本社長は俺の大声に驚きながらも微笑み、ぺこんと頭を項垂れた。


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