惑溺オフィス~次期社長の独占欲が止まりません~

どう言い訳しようかと考えているうちに陽介さんのマンションに到着した。

仕事帰りに迎えにきてくれたらしい。黒いブリーフケースをソファに置いた陽介さんが、ジャケットを脱いでネクタイを緩める。


「お忙しいのにありがとうございました……」


部屋の隅で頭を下げ、ゆっくりと上げているうちに陽介さんが私の目の前に立っていた。驚く私の腰を引き寄せ、唇が重なり合う。いつになく性急なキスは、唇を割った舌ですぐに深くなり、私から酸素を奪った。

息もつけないキスに身体の力が抜けていく。立っていられずに膝から崩れ落ちそうになったところで、陽介さんは私を抱き上げた。

連れていかれたのはベッドルーム。それがなにを意味しているのかわからないほど初心じゃない。

陽介さんと一緒にいられるのは、あと一週間。その切なさが私の心を丸裸にしていく。

想いが届かなくてもいい。陽介さんが私を恋人として扱ってくれるわずかなうちに、この疑似恋愛に身を任せたい。

そっとベッドに下ろされた私の洋服を陽介さんが剥ぐように脱がせていく。陽介さんに似つかわしくない荒っぽい手つきに戸惑いながら、それでも私の胸は高鳴る。一週間後に待ち構える別れに目をつむり、好きな人に抱かれる喜びでふたをした。

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