惑溺オフィス~次期社長の独占欲が止まりません~
大勢の人たちが行き交うオフィスビルのエントランスで話すような内容ではないけれど、時と場所を選んでいる余裕はない。ミーティングも控えているため、なるべく手短になるよう頭の中を整理しながら、彼氏が必要になった経緯を話し始めた。
副社長は兄のあまりの溺愛ぶりに時折眉をひそませてたり、「お兄さん、正気?」と訝しげに突っ込みを入れたり、忙しく表情を変える。
そうして今朝、兄から送られてきたメールの部分まで私が話し終えると、彼は肩を上下させて小さく息を吐いた。
「悪いけど、演技はできない」
やっぱりというのが正直な感想だった。
いくらなんでも私の彼氏のふりなんて引き受けられなくて当然。私が副社長だったら同じように断るだろう。
「ですよね。変なことを言って申し訳ありませんでした」
頭を思い切り下げる。
私ときたら本当に恥ずかしい。兄がシスコンだということまであけすけに打ち明けたことを後悔しても、もう遅い。
でも、副社長ならほかの誰かに話したりはしないよね?
仕方ない。兄には彼氏ができたことは嘘だと正直に話そう。