拾い恋(もの)は、偶然か?

音の快進




「なぜあなたが彼女を好きになったのか、理解できるわ。」

「え?」


泣きじゃくる音が機能しなくなり、この女は帰ることにしたらしい。帰るというのを引き留める理由もなく、それどころかそもそも家に上がるなよと思う。

「ほんと、羨ましい。」


しかし、先ほど訪ねてきた時よりこの女は、ずいぶんリラックスしているように見えた。呟かれた言葉は、本心を表している。この女もまた、音の良さに気付いた1人なんだろう。


「直野(なおの)は、どうなるんだ?」

「あら、知っていたの?」


直野明日香、この女の名前。この女の父親が経営している【NAONO】は、昔からうちの会社と取引してきた。最近、あまり景気はよくない。しかし【NAONO】の持つ技術は他の会社では変えなどきかない。


そこで恐らく、俺と直野明日香の婚姻話により、我が社が【NAONO】を技術ごと吸収しよう、なんて話になったんだろう。


確かに、【NAONO】の技術は世界にも通用する。今の社長で6代目。残念なことに彼の社長としての手腕は凡庸以下と言っていい。そのせいでせっかくの技術は活用する場が少なく、経営は苦しくなるばかりだ。



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