君と、世界が変わる瞬間に。






結局、そのことが頭から離れず授業も集中できなかった。そして6時間目の移動教室になったとき…


「なぁ」


カバンを持った夕凪君が私達に話しかけてきた。いや、正確には私に話しかけたらしいのだが、その一言からはわからなかった。



「来て欲しいんやけど」


「え?!」


手首をギュッと掴まれ、腕の中から教科書らがバサバサっと落ちる。


「ごめんけど、この子借りるな!」


…え?!


「…あ、うん!!…空は体調不良で休んでるって伝えるね!!!!」


「おおきに!」


「え、ちょ、まっ…。…何?!!」


手首を掴まれそのまま引っ張られるこの状況を理解出来ない私は、足がもつれながらもされるがままとなっていた。


ーガチャー


「…夕凪君…私、授業行かないとっ…」


屋上に入ってから離された左手を、右手で抑えながらそう言った。


「みてみ!」


けれど、彼には届かなかったみたいだ。


「ほらほら〜!…見てや!…」


夕凪君が私の背後に回り込み、グイグイと押した。私は、力強い彼に抵抗できず、結局屋上の真ん中に来てしまった。


「…っ…」


けれど私は抵抗どころか、声を出すのも躊躇った。


「な、綺麗やろ?」


目の前に広がるのは、澄んだ空だ。雲かなくて、広くて、透き通るような清い空。…


「澄清っていうんや」


「ちょう…せい?…」


「そ。澄んでて清い…濁りのない空のことや」


きれい…。……濁りのない…その通りかも。

その空は、悩みとかなにもかもどうでも良くなってしまいそうな程に、私の心に強く印象づけた。


「…どーや?元気でたか?」


夕凪君は空見ながら私に言った。


「……元気だったよ」


「そうか。なら、お節介やったな〜」


彼は気づいていた。だから連れてきてくれた。…なのに、気づかないふりをした。お節介なことをした、なんておもってないくせに……。けど、そんな彼のちょっとした優しさが…今は心にしみた。







< 8 / 171 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop