私の本音は、あなたの為に。
私が此処を出て、五十嵐が私を追いかけてから、五十嵐は此処に立ち入っていない様だった。


けれど、今はそんな事は関係ない。


私はくるりと踵を返し、また廊下へと向かった。



そこには案の定、先程の姿勢のままで2人が立っていて。


「安藤、何で……」


まだ諦められないのか、五十嵐は私に呼び掛ける。


「……ごめんね、五十嵐」


私は、2人から少し離れた所で立ち止まり、振り返らずにそう言う。


「……」


「…少し経てば、大丈夫だから。…今だけ、ごめんね」


時間を置けば、また今までと同じ様に接する事が出来ると分かっているから。



その時、花恋がゆっくりとこちらに近付いてきた。


そのまま、通り過ぎざまに私に話しかけてきて。


「優希、大丈夫だからね」


小声だった為、私でも聞き取ったその言葉が合っているのかは微妙だったけれど。


それでも、花恋が私を応援してくれている事は分かった。


「じゃあ、私は音楽室に戻らないとー」


今までの五十嵐との会話は何処へやら、花恋は大きく伸びをしながら階段を上って行った。



それを見届けた私も、階段を下りて行く。


先程とは違い、五十嵐が私を呼び止める声は聞こえなかった。
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