遅すぎた初恋
歓迎されぬ花嫁

1

浜辺で「どういうことだ!」「いつ結婚した!」「そんな勝手は許さない!」など矢継ぎ早に問い詰める私に、弟はとりあえず中で話そうと、別荘に戻った。

道中、憤りを隠せない私と宥めながらその横を歩く弟に、手を引かれながらも必死に付いてくる彼女の姿に目をやるが、足取りを緩めてやろうなんて気はサラサラ起こらない。

とりあえず、弟と彼女を応接室に通して、今まで何をしていたかを聞いた。

途中お茶を運んで来てくれた、この別荘の古い使用人夫人が、改めて弟との再会と彼女の存在に喜び感涙していた。

弟、隆次は私とは歳が十離れ二十八歳になる、昔から愛嬌があり周囲の人から愛される気質が備わっている。

我々の家は元は地方財閥の流れを汲む家系で今は東京に本社を置く大手ゼネコンだ。

父は弟が大学生の時に他界し、今は私が跡を取り、会社とそして高柳家一族の家長となっている。

私自身は元々父が体の弱い人であった為、早くから自分の立場を自覚し、高校の頃には父の仕事を手伝いながら、留学やらなんやらと後継者としての一通りの道を歩んで、それなりの素質を備え今の揺るぎない地位にある。

弟は私とは違い、ある程度は自由な環境で育つことを許された為、高校までは私と同じ道を歩んでいたが、ある日、将来は絵で食べて生きたいと、父親の反対を押し切って芸術に秀でるものが行く大学に進学を決めた。

反対していた父親には、弟に大学を出たら会社は手伝うという約束をさせ、許しをもらった。
弟には、興味があるものがあれば、僅かな時間でも打ち込める環境を作ってあげたかったからだ。

だが、弟は卒業と同時に私達との約束を反故にして姿を隠した。

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