副社長は今日も庇護欲全開です
「きっと、遠くない未来、そうなれる。そうして、みせる……」

◇ ◇ ◇

「下村さん、副社長室への届け物をお願いできるかな?」

午後の業務が始まってすぐ、課長から声をかけられ密かに心が踊った。

「はい。どういうものでしょうか?」

直哉さんと付き合い初めて、半月以上が経っていた。けれど、忙しい彼とはなかなか会えず、お泊りもまったくできていない。

電話やメールはしているけれど、それも限られた時間のなかでのこと。ゆっくりと顔を合わせることがなかったから、たとえ業務内であっても彼に会えると思ったら、はやる心を感じていた。

「システム部の資料なんだが、提出を求められてね。僕は、今からアポで外出しないといけないんだ」

申し訳なさそうに話す課長に、私は笑みを浮かべる。

「分かりました。すぐに持っていきます」

「悪いね。よろしく頼むよ」

課長はすまなさそうにオフィスを出ていったけれど、私としては嬉しい。話はできなくてもいいから、直哉さんの顔が見たかった。

同じビルにいるというのに、全然会えないのだから……。

「いいな、陽菜。私が持っていきたいくらい」

課長とのやり取りを見ていた真美香が、ため息混じりに言った。

「ただ持っていくだけよ。すぐに戻ってくるから」

今までだったら、彼女の言葉を半ば呆れて聞いていた。でも、今は偉そうなことは言えない。直哉さんに会いたい、そればかり考えているから……。

裏階段を駆け上がり、副社長室へ向かう。いつもどおり、秘書室をノックしてみたけれど、住川さんの応答がなかった。

「あれ? どうしたんだろう……」

いつもなら、すぐにドアを開けてくれるのに……。この資料を渡すことは、アポになってなかったのかな?

急ぎのものだったらいけないし、もしかしたら直哉さんとなにか話をしているのかもしれない。戸惑いを覚えながらも、そっとドアを開ける。すると、秘書室には誰もいなくて、代わりに副社長室から話し声が聞こえてきた。

やっぱり、直哉さんと話中だったみたい。申し訳ないと思いつつ、副社長室のドアをノックしようとしたときだった。

「副社長、茉莉恵(まりえ)さんとのご結婚のお話は、どうされるおつもりですか?」
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